沖田は白岩を見ると

沖田は白岩を見ると、眦を下げて悲しげな表情を浮かべる。

｢この前のこと…。ああ、大丈夫です。沖田先生が気にすることやありまへん。自分が…弱いのが悪いんやから｣

白岩は自分に言い聞かせるように言う。近藤や土方、沖田らのように昔馴染みならば兎も角、素性が知れない自分について聞かれるのは当たり前である。

その度にあの様な騒ぎを起こしては悪目立ちしてしまうではないか。

それでは吉田先生の役には立てない。居場所を守るためにも自身の感情など押し殺して、白岩を演じるしかない。瘦面botox 居場所を守るためにも自身の感情など押し殺して、白岩を演じるしかない。

｢色々事情がおありなのですね。まァ、ここは剣術集団ですから。刀さえ振るれば良いですよ｣

沖田は背伸びをすると立ち上がった。

背丈があるために白岩に影を作る。

｢白岩君、貴方は絶対に裏切ってはいけませんよ。斬らなくちゃいけなくなりますからね｣

沖田は目を細めた。白岩は背筋に冷たいものを感じるが、平常心を保つ。

｢勿論。沖田先生のご期待を裏切るような真似はしまへん｣

｢ふふ、よろしくお願いしますね。あっ、勇坊と為坊。それに桜花さん｣

沖田は目の端に子どもたちと遊ぶ桜花の姿を捉えると、そちらに向かって歩き出す。

白岩は沖田の姿が見えなくなったのを見計らい、深く息を吐いた。

何か勘づかれているのかも知れない。｢ねぇ白岩君。この前のこと…すみませんでした｣ 桜花は為三郎、勇之助を連れていた。

今日の仕事は子守りである。

何をして遊ぼうか考えていた時、そこへ沖田がやってくる。

｢何をしているんですか？私も混ぜて下さい。暇なんですよね｣

｢あ、総ちゃんだ。ええよ、一緒に遊ぼう｣

勇之助は嬉しそうに沖田の手を握った。

子どもが大好きな沖田は相好を崩す。

｢やあ、賑やかで良いですね。こんにちは｣

｢あっ、山南さんや！一緒に遊ぶ？｣

出掛ける支度をした山南が現れた。優しい性格であり、子ども達ともよく遊んでいるからか懐かれている。

｢あ、いえ…今日は出掛ける用事があるんだ。済まないね｣

山南はそう言うと勇之助と為三郎の頭を撫でた。

｢えー、何処行くの？｣

そう問われると、山南は少し困ったような表情を浮かべて明後日の方向へ目を向ける。

沖田はそれを見てある事に気付き、くすりと笑った。

──山南さんは本当に嘘がつけないお人だ。

｢きっと大切なお仕事なのよ。また今度遊んでもらいましょうね｣

桜花はそう言うと、為三郎と勇之助の背を優しく押し壬生寺の方へ向かう。

山南はホッとした表情を浮かべると、4人に手を振って歩き始めた。

｢桜花さん、ちょっと｣

為三郎と勇之助は壬生寺の境内へ走っていく。

沖田は桜花を呼び止め、そっと耳元に口を寄せた。

突然の行動に桜花は顔を赤くし、身体を強ばらせる。

｢きっと山南さん、好い人のところへ行ったんですよ。これは秘密にしておきましょうね…｣

｢好い人…？｣

｢はい、恋仲の女性がいるんですよ｣

沖田は悪戯を思いついた子どものようにニヤリと笑った。

｢ええ！山南さんに！｣

沖田の言う通りに山南には恋仲の女性がいた。

島原で天神という位の遊女であり、京へ彼らが上洛して間も無く山南が一目惚れをし馴染みとなった。

山南は酒や女に元々興味は無かったが、彼女に会うために定期的に通い、やっと恋仲になったという。

｢御相手の女性も良い人ですよ。私達のことを馬鹿にしませんし。京女とは思えないくらいに腹の底が黒くないです｣

沖田はそういうと肩をすくめた。

桜花は不思議な気持ちになる。新撰組は剣客かつ男集団のため、恋愛とは無縁だと勝手に思っていた。

｢恋愛…か。屯所住まいなのに結婚とか出来るんですか？｣