「そうですか…。ところで、貴方の思想とは?」
山南の質問に、伊東は待ってましたと言わんばかりに得意気な表情を浮かべた。
「一言で言えば一和同心、ですよ」
首を傾げた山南をよそに、伊東は言葉を続ける。
「この日ノ本が心をひとつにして和する、easycorp という意味です。そして は昔から尊皇攘夷派。主上を中心とした政権展開と、攘夷が好ましいと考えます」
成程、と思った。そして伊東の言う一和同心とは、前に桜司郎が言っていた長州と幕府が手を組むという話しに似ているとも感じる。
だが、これだけ聞くとまるで新撰組とは方向性が異なる。強いていうなれば、攘夷だけが共通点ではあるが、残念ながら新撰組は攘夷を実行出来ていなかった。
今やっている事は京の街の治安維持と、その一環で不逞浪士の取り締まり、そして会津藩の求めに応じた出動だけだ。
しかも、松本法眼との交流により、近藤は異国の技術に僅かな興味を示し始めている。
攘夷という根本的な考えは変わらなかったようだが、土方に言わせれば攘夷のために異国の文化を学び取り入れるのは本末転倒ではないかとうことだ。
思えば、新撰組の幹部でも思想の不一致は昔から起こっている。近藤や土方は佐幕攘夷派、永倉や斎藤、藤堂、原田、山南らは尊皇攘夷派だ。ちなみに井上と沖田にはこれといった思想は無く近藤に付き従っている。
それでも成り立っているのは、に江戸での付き合いの暖かさ、近藤や土方との友情の為だ。
だが、それも最近は揺らいで来ている気配を感じている。近藤は驕り高ぶる様子が見られ、土方は規律の為に鬼となっていた。
「一和同心。素敵ですね、前に桜司郎君も似たような事を申していましたよ。ですが、新撰組は色々な思想が入り乱れておりましてね。純粋な尊皇攘夷の隊ではないのですよ」
桜司郎という名前が出てきたことに伊東は関心を更に高める。
「それは藤堂君からも聞いております。人が多く集う以上、思想が異なるのは仕方ありますまい。…深く知る機会が無かった者もいることでしょう」
元々、だったが衣食住を求めて転がり込んだ者や、お家が潰されたため禄を求めて入隊した者も少なくなかった。
だが、それらは全て剣の腕が立っている。
纏めて勤皇思想にしてしまえば、何よりも強力な味方となるのではないか。
それは酷く魅力的に思えた。
「それは…そうですね。ですが、私は…伊東君が隊に失望するのでは無いかと心配でもあります」
山南はその思惑に気付かずに、純粋に伊東の身を案じる。
それを見た伊東は目を細め、友好的な笑みを浮かべた。「…全く、山南君は本当に素晴らしい人です。心から信頼に足る人物だと、は改めて実感致しましたよ」
「突然どうしましたか。私は何も素晴らしい事など申していませんよ」
「いえ、近藤局長が の入隊を心から望んでおられる事を存じているでしょう。それでも、山南君は
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